214
―2月14日―
アレクサンドリア城の女性兵の意気込みが、普段よりも違う1日が到来した。
この日の休暇届争奪戦は、ものすごく凄まじいのが恒例らしい。
運良く休暇が取れた者は、城外にいる愛しの人の所に行ったり、手作りチョコの最後の仕上げをしたり、色々と忙しい。
ベアトリクスは、『2月14日』を意識していない訳ではない。今年は、去年とは違う。
しかし、今日は休暇届が多いので、自分はその穴埋めのため出勤する事にしている。
スタイナー同様、彼女の仕事熱心が解る一面である。
「ベアトリクス将軍、今日はスタイナー隊長に?」
ベアトリクスの直属の女兵士が問い掛ける。
「私は……時間があれば、ね。」
「では、頑張って仕事をします!」と、言い残すと自分の持ち場に行った。
「今日中に渡す事が出来るのかしら…。」
城の外にいるプルート隊のメンバーと喋っているスタイナーを見つめながら、ベアトリクスがそっと呟いた。
「隊長〜〜今年は、義理だけではなく本命も……!?」
プルート隊のメンバーが、からかう様に言う。
「う、うるさいのである!」
赤くなるスタイナー。
「今日は頑張って下さい!これ、あげますから!!」
スタイナーに手渡されたのは……避妊用具であった。
更に赤くなるスタイナー。
「貴様ら!早く持ち場に戻れ!自分は夜勤明けなので、もう寝る!」
スタイナーは、ちゃっかり避妊用具をもらって自分の部屋に戻っていった。
「隊長、持っていったね…。」
「今夜、頑張るつもりだよ。」
「んじゃ、今夜は覗きに行くか!」隊員達の声がそろった。
夜勤明けのスタイナーは自分の部屋に戻り、軽く食事を済ませるとシャワーを浴びる。
身体の隅々まで洗い、バスルームから出ると、寝酒にするワインを取り出し一口、口に含む。
疲れが出たのか、アルコール類に強いはずのスタイナーに眠気が襲ってくる。
スタイナーは、そのままベットに倒れ込んだ。深い眠りがスタイナーを包み込む……。
時刻は、午後3時を刻もうとしていた…。
太陽は沈み、アレクサンドリアは夜に覆われていた。
ベアトリクスの仕事は、いまだに終わる気配がない。
「この様な時に限って仕事は、なかなか終わらない物なのですね…。」
溜息が出る。手を休めていた彼女は、再び仕事を再開する。
それから、どのぐらいの時間が流れたのだろう……
2月14日は後、数分で終わろうとしている。
アレクサンドリア城内も、最高潮の盛り上がりになりつつある。
この頃に、やっとベアトリクスの仕事が終わった。ベアトリクスは急いでスタイナーの部屋に行く。
スタイナーの部屋の前まで来ると、2回ほどノックする。反応が無いので、もう1度…。
「す、すまん。待たせたか?」
「ノックの音で誰だか解るの?」
「そ、それは…おまえだけだ!」
赤くなるスタイナーは、寝間着姿に、髪の毛には寝グセ。
「もしかして、就寝中でしたか?」
「いや、今、起きた所なのだ。気にするな…。」
ベアトリクスを招き入れると、スタイナーは眠気覚ましに顔を洗った。
彼女は、今まで彼が眠っていたベットに腰を下ろす。スタイナーは隣に座る。
「…ベアトリクス。…今日はどうしたのだ……?」
解っているのに、赤くなりながらも思わず聞いてしまうスタイナー。
「今日は、女の人が自分の気持ちを伝える日……でも、時間が…。」
ベアトリクスの目線の先にある時計は、15日の時刻を刻んでいる。
「時間など、関係ない…気持ちが大切なのだ。」
その言葉に癒されたベアトリクスは、スタイナーに渡す。
「嬉しいのである。」
「本当は、手作りにしたかったのですが…時間が無かったので……。」
珍しくベアトリクスが赤くなる。そんな彼女を見たスタイナーは、彼女の事がとても愛しくなる。
「ベアトリクス…1つ質問していいか?」
「答えられる質問なら…。」
微笑んでいるベアトリクスも、愛しくなるスタイナー。
「本命チョコと義理チョコの違いはどこにあるのだ?同じチョコなのに…自分には、よく解らん。」
真剣な表情でベアトリクスに問いかけるが、彼女は笑っている。
「何か、おかしい事を質問したか?」少々困惑する。
「違います。真剣な表情なのに、髪の毛は…。」
スタイナーは慌てて髪の毛を直す。そんな行動が、子供っぽく見える。
「質問の答えは、その方に渡す時の、自分の気持ちです。」
再び真剣な表情のスタイナーは、ベアトリクスの顔を自分の方に向ける。
スタイナーのその眼差しから逃れる事が出来ないベアトリクス…。
「では、ベアトリクスのは…どちらなのだ?」
「解っているでしょう?」
「もちろん、解っている。だが…その気持ちを表して欲しいのだ…。言葉ではなく行動で。」
ベアトリクスに甘えるスタイナー。
すがる様に見つめられたベアトリクスは、断る事が出来なかった。
「目を閉じて…スタイナー。」
「解ったのである、ベアトリクス。」
スタイナーは素直に目を閉じる。彼が目を閉じた事を確認すると、スタイナーに渡したチョコを自分の口に含む。スタイナーの唇を、自分の唇に寄せる。
そして、甘く短いキス―…。
その行為が終わると、恥ずかしいのかスタイナーから目を逸らすベアトリクス。
そんな彼女を見たスタイナーは、ベアトリクスの後に座り、背中を覆う様に優しく抱き締める。
普段のスタイナーからは想像が出来ないほど、積極的な彼の姿がある。
「ベアトリクスの唇は柔らかく、また口付けをしたくなる…。」
彼女の耳元で甘く囁く。背中越しに、ベアトリクスの熱い体温が伝わってくる。
伝わってくるのは、体温だけではなかった…普段よりも早いと思われる鼓動も伝わってくる。
スタイナーの手に自分の手を重ねると、ベアトリクスは彼に身を委ねた。
騎士であるベアトリクスが、自分の背を任せるのは安心しきっている証拠…。
ベアトリクスもまた、背中越しに彼の温もりが伝わってきた。
スタイナーは、そのままベットにベアトリクスを引き込む。彼女の服が少し乱れる。
少し露になった背中の柔らかい肌に、優しく自分の唇を重ねる。
「あっ…スタイナー…やめて…。くすぐったい。」少し感じながらも、困った表情のベアトリクス。
スタイナーにとって、その表情もたまらなく愛しく…抱き締めたくなる。
彼は少しの間、その行為を続けるとベアトリクスの要望通りにやめ、自分の方に彼女の顔を向ける。
ほのかに赤くなっているベアトリクス。
「ベアトリクス…自分は、もっと甘い物が食べたいのだ…。」
「意味が解らない。」と、疑問の表情を見せる。
「…解っているだろう?」
「じゃあ、私の様に、行動で自分の気持ちを伝えて…。」
ベアトリクスもスタイナーと同じ様にすがる目で見つめる。スタイナーはその表情と瞳に弱い。
「…負けたのである。」
自分の負けを認めたスタイナーは、そのままベアトリクスに舌が絡むほどの深い口付けをする。
服が乱れた所から脱がせる。
それは、熱い夜の幕開け……。
END