騎士と兵士と聖騎士と<決勝へ>

「それでは・・・始め!!」
試合開始の掛け声がかかった。
今日は大会初日。たった今、Aグループの1回戦が始まった。
この大会で勝つための方法は、相手が降伏するか、円状の闘技場から外に出した場合の2つである。そして、大会で使用される剣は切れ味の悪いロングソードである。これならば、相手を怪我させることも少なくなる。現にこの大会で大怪我をする兵士は非常に少ない。
ひときわ大きな歓声が上がった。どうやら試合が終わったようだ。左側にいた兵士の剣を右側の女兵士が見事に飛ばした。
そして、2試合目。
立ち上がったのは・・・
「隊長!!」
そう、スタイナーである。
相手となるのは、プルート隊のハーゲン。
両者が剣を構えた。
「それでは第2試合・・・・・・始め!!」
まずは、軽く剣を交えて相手の出方を待とう。そう思ったスタイナー。
しかし・・・
「熱血ぅ〜〜」
いきなり突っ込んできた。
そういえばこういう奴だった、そう思いスタイナーも向かっていった。
「隊長ぅ〜〜覚悟ぉ〜〜〜」
そして、すれ違う直前。
ハーゲンの剣を右側に飛び、かわす。わざと紙一重で。そうすることで、体が若干相手の正面に残る。あとは、剣の平らな部分で衝撃を与えるように叩きつければいい。おそらくこのダメージで、お腹の中のものが逆流したに違いない。そして、その衝撃でハーゲンは剣を落とし、一瞬だが次の行動に移るのが遅れた。その隙にスタイナーは、落とした剣の上に乗り、自分の剣をハーゲンに向ける。
「勝者、スタイナー!!!」
審判の声が高らかに響いた。

一方、Bグループ。
「・・・第3試合始め!!」
剣を向け合っているのは、一般兵と・・・・・・ベアトリクスである。
ベアトリクスは動かない。剣を構えることさえしない。
それを見て、一か八か兵士は突っ込んできた。ハーゲンとはまた違った捨身攻撃である。どう違うかというと、この兵士は勝てないだろうと考えているのに対して、ハーゲンはそういうことを考えていない。純粋に突っ込んできている。
・・・・・・余談。
そんなことを言っているうちに、ベアトリクスの眼前に兵士は来ていた。
よけようとする気配はない。もう、兵士の剣は目の前にある。
当たる。兵士はそう思った。この距離で避けるのは不可能だ、と。
しかし・・・・・・
「・・・!?」
その兵士は、当たるはずだったその瞬間に、瞬きをした。とはいえ、振り下ろす剣のいきおいは、ゆるめなかった。しかし、目をあけたときベアトリクスの姿はなかった。
そこに残ったのは、自分の剣で切った彼女の髪の毛の1本だけ。
「まだ続けますか?」
その声は後ろから聞こえた。そして自分の首筋に、何か冷たいものが突きつけられているのに気付いた。
「こんなことが・・・」
あり得るのかと、兵士は思った。
「勝者、ベアトリクス!!」
ひときわ大きい歓声があがった。

まあ、実力差は明白である。2人とも後の試合は2,3回剣を交わしただけで決着がつく、その程度のものだった。
そして、大会4日目が終わった。
大会は、全部で5日間。最終日は決勝だけが行われる。
その4日目の夜・・・・・・

机をドンと叩く音がした。
「相手がベ、ベ、ベアトリクスだと!!」
声がでかい。
ついでに、机を叩く音もでかい。
スタイナーと1人の兵士が話している。
話していることは、決勝でベアトリクスと戦う、その話だ。
準決勝が終わった時から、ずっとその話が噂になっていたのに、何をやっていたのだろうか、この男は。
「し、し、し、しかし、自分は、ベ、ベアトリクスと戦うなど・・・」
そりゃあ、確かに出来ないだろう。
「隊長〜〜それでいいんですかー。このままじゃ、ベアトリクス様や女兵士達の笑いものですよ〜〜」
ちなみに話している兵士とは、プルート隊のワイマールである。
別にワイマールは、本気でスタイナーのことを心配しているのではない。ただ面白そうなんで、たきつけているだけである。
結構、ひねくれた奴である。
『いい』性格、とも言うが。
「それどころか、プルート隊からの信頼もガタ落ちですね〜〜」
ここまで言われてスタイナーのとる行動は。
(ここでやらねば、恥である。しかし・・・)
頭をフル回転させているスタイナー。ダメ押しにもう一言。
「やっぱり隊長でも、ベアトリクス様には勝てないと思っているんですね〜〜」
さあ、どうするスタイナー。
「・・・・・・やってやろうではないか!!」
ああ、言ってしまった。これでいいのかスタイナー。

(いよいよ・・・)
明日が決戦の日、だ。
スタイナーと戦ったことは、過去3回ある。まだ、2人とも一般兵に過ぎない頃だったとはいえ、その戦いをベアトリクスは覚えていた。彼女にとっては、印象深いものだったからだ。もっとも、スタイナーは忘れているようだが・・・
今でも、なぜこの大会に出場しようと思ったのかは分からない。なにしろ、出場したのは10年ぶりなのだ。大会に出よう、そう思う気持ちなど、もうなくなっていたと思っていたのに。
―なぜ、その気持ちをなくしたんだろう。
彼女の苦悩の出口は、まだ見えそうになかった。