騎士と兵士と聖騎士と<決戦当日>

辺りはすさまじい歓声に包まれていた。その中にスタイナーはいた。
そして、自分の前にいる相手は・・・そう、ベアトリクスである。
もうすでに、試合は始まっている。
スタイナーは剣を構えたまま動かない。ベアトリクスは目を閉じたままこちらもまた動かない。
しかし、どうやらベアトリクスは動きそうにない、そう思ったのか先に動いたのはスタイナーだった。
一気に間合いをつめ、右から左へ剣を一閃させる。しかし、普段よりもわずかに振りが鈍い。剣に迷いが表れている。
それとほぼ同じタイミングで、ベアトリクスが目を開いた。そして、その一撃を一歩後ろに下がって避け、左に流れた相手の剣に自分の剣を激しく叩きつける。剣を通じて、スタイナーの体に衝撃が来る。手を抜かず本気で行く、という牽制のための一撃だろう。
再び両者が向かい合う形になった。
(本気で行かなければ・・・やられる・・・・・・!!)
スタイナーは本能的にそれを察知した。そうでなくても、先ほど剣を合わせたときに、傷を負わせるくらいは出来たはずだ。それが分かっているだけに、緊張感は一気に高まった。
それに対して・・・・・・
(絶対に・・・絶対に勝ってみせる・・・!!)
ベアトリクスは、昨夜の迷いなどそこには全くなかった。驚くほどにこの試合に集中しているのだ。
次も、先に動いたのはスタイナーだった。雄叫びを上げて突っ込んでいく。それに反応し、その攻撃を剣で受けようとする。しかし予想していた衝撃はなかった。
「・・・・・・!?」
来ると思っていた右からの攻撃はフェイントだったのだ。勢いを感じさせれば、フェイントは成功しやすくなる。雄叫びを上げたのもそのためだろう。
そのかわりに、次の瞬間から息もつかせぬ連続攻撃を仕掛けてきた。
ひとつでも受けそこねれば、勝負は決まる。それほどの勢いを感じさせる攻撃だった。先ほどまでの迷いなどは微塵も感じさせない。
「くっ・・・」
ベアトリクスは、かすかに声を漏らした。先ほどまでは集中していたが、余裕を持って戦えていた。しかし今はその余裕はない。
ベアトリクスは、一歩二歩と後退していく。スタイナーにとっては、ここまでは狙い通りに相手を追い込んできた。あとはどう詰めるか、だ。
(このまま押し切れるか・・・!?)
普通の相手なら、このまま押し切れただろう。いや、それ以前に、連続攻撃を受けきれずに終わるに違いない。しかし今は相手がベアトリクスだ。油断は出来ない。
そして次の瞬間、その考えが正しかったことをスタイナーは知ることになる。
「・・・!?」
スタイナーの剣は、確実にベアトリクスを捉える直前まできていた。あと2,3回の攻撃で当たるはずだった。しかし、先ほどまでギリギリで受けていた攻撃を易々と自分の目の前で受けて見せた。
「・・・・・・」
どちらも剣を交わした体勢のまま動かない。どちらもそこからもう一歩が踏み出せない。
「はあっ!!」
不利な体制から動いたのはベアトリクスだった。相手の剣を弾き、もう一度向き合った状態に戻す。
元に戻されて、スタイナーは一呼吸おいた。
しかし・・・
「な・・・!?」
その動きまで完全に読んでいたかのような攻撃だった。一呼吸おいた隙を見逃さず、飛び込んできた。
何とか咄嗟に剣を前に出した。これで何発かは耐えられる。前からの攻撃なら、だ。
「ベア・・・トリクス・・・」
もうそのときには、前にはいなかった。それは、相手の隙を完全についた攻撃だった。相手の余裕を完全に無くし、すばやい動きで相手を翻弄する。これが、いままでベアトリクスがどんな相手でも勝ってきた理由であった。
「どうですか?」
後ろから、剣を突きつけながらベアトリクスは言った。
そのとき、スタイナーにはもうこれから取れる行動は2つに絞られていた。
降伏するか、賭けに出るか。
もちろん前者を選択する気など全くない。勝つために戦っているのだ。負けるわけには行かない。
次の瞬間にスタイナーは行動に移した。前に飛び、空中で体を反転させ、次の一撃を剣で止める。しかしそのためには、受身も取らずに衝撃に耐え、剣を受ける必要がある。そう、不利な体制なまま相手の剣を受けようと言うのだ。
(出来るか・・・!?)
前に飛び、体を反転させた。
(・・・・・・!?)
あまりに早かった。目の前にベアトリクスが、そしてベアトリクスの剣がそこにはあった。
(やられる・・・!!)
容赦のない一撃。
かろうじて直撃は免れたが、防御をする余裕など全く与えてもらえず、スタイナーは地面に叩きつけられた。
素早く起き上がり、更に戦いを続けた。
しかし、何度やっても同じだ。そのたびにスタイナーが地面に転がり、傷を増やしていく。
「まだまだ…!!」
スタイナーはなおも突進を続ける。

自分が剣を振るうたびに、スタイナーは傷を増やしていく。
そのことが、耐えられなくなってきている自分が、もどかしかった。
(スタイナー・・・)
かすかにベアトリクスの瞳がゆれていた。