大いなる福音
「わぁ、お似合いですよ。将軍。」
部下の女兵士の言葉にベアトリクスは、まじまじと鏡を見つめる。
深紅の口紅が唇を彩る。彼女の白い肌にそれは、とてもよく似合っていた。
クジャとの戦いが済みアレクサンドリアやリンドブルムも昔の賑やかさを取り戻そうとしていた。
戦いで恋人や家族を失い自暴自棄になった人々も悲しみを乗り越え今度は、自分たちが生きる為、
仕事を始める。最近は外側の大陸からの行商人も城に出入りするようになったのだ。
外側でしか取れない魚だったり、珍しい花だったり、まあ何にしても、それらの品は城でも町でも
よく売れて大評判だった。今日、城に来た行商人は女性の化粧品などを売りに来ていた訳である。
丁度、時間は昼の休憩の頃。食事も終えて女兵士がベアトリクスの周りに輪を作る。
「この口紅の色はうちの村でしか作れないもんなんだぁ。」
行商の娘の言葉にベアトリクスはもう一度鏡を見なおす。なるほどこの辺ではナカナカ見かけない
赤だった。
「あんた色も白くて綺麗だから淡い色よりこんなのが似合うねぇ。あんた将軍なんだって?お近ずき
の印に、これはあんたにあげるわ。」
娘がベアトリクスに強引に手渡す。
「お気持ちはうれしいのですが・・・」
「いいから!!取っといておくれ!」
アレキサンドリアには沢山の女兵士がいる。その憧れのベアトリクスが使っている口紅ともなれば
大人気間違い無し!!これで彼女もしばらくお客には困らないだろう。
女兵士の中をかいくぐりベアトリクスは城の噴水までやってきた。
城の中でも一番静かな場所それがここだった。
ここから湖を眺めるのが好きだった。何も考えず、ただ水の音に耳を傾ける。ここだけが唯一
心休まる場所だったのに・・・今は・・・違った。
「ふう・・・」
1つため息をつく。巻き毛をさっとかきあげ湖面に映る自分の姿を見る。
そこに映るのは、いつもの女将軍ベアトリクスでは無かった。
いつもは気にも留めなかったシルバーの眼帯。この頃はそれが重荷に感じる・・。
軍人としての勲章だった・・・そう思っていたのに。
あの日ベアトリクスはスタイナーの気持ちを聞くことを拒んだ。今度無事に会えた時に、と。
「我ながら・・・情けない・・。」
湖面に映る自分の顔は泣いてしまいそうなほど哀しそうに見えた。
「私は強くなんか無い。」
つぶやく。ベアトリクスはまよっていた。このまま剣の道を進むか、スタイナーと・・・。
あの時、自分とスタイナーが気持ちを確かめ合っていたら、今自分はどうしているだろう・・?
もともと不器用な性質なので、きっと二つを平等になんて出来ない。・・・・と。
迷いを断ち切るように腰のセイブザクィーンを抜きさる。城の大きなクリスタルと共鳴するかの様に
その剣は輝いた。
城内。夜勤のワイマールとラウダが他愛ない話をしている。
「ベアトリクスって結構胸あんだよね。」
と、その時勢いよく詰所の扉が開く。
「ばかもーーーん!!上官であるベアトリクスを呼び捨てとは何事だーーー!!」
「たったいちょーーー!?」
「さっさと城内の見まわりをしてこんか!!たるんどる!!」
二人を追いたてるとイスにどっかと腰を下ろす。最初は生意気な小娘だと思っていた。若年で将軍となり
女王からも国民からも信頼され、自分とはかけ離れた存在。それがベアトリクスだった。それなのに・・・。
今では日に日に彼女の存在がスタイナーの心の中で大きくなっていく。
あの髪に触れたい。口付けたい。一晩中抱きしめていたい。
あの後何度かベアトリクスに想いを打ち明け様としたが、彼女の瞳はそれを拒んでいる様で言えなかった。
それぞれの想いを優しく包むかのようにクリスタルは静かにその光をたたえていた。
続きます^^