【  POWER OF LOVE  】

めでたく将来を誓う事と成ったスタイナーとベアトリクスの二人。
しかしそこはアレクサンドリアの騎士らしく、何よりまず自国の復興が優先であると考え、結局以前と変わらず激務をこなす日々を続けていた。
これはそんな二人の、ある日の出来事である。

「ここら辺も随分建て直しが出来てきたようですね」
ベアトリクスは壊れた壁の補修をしている民家に目をやった。
今日はガーネットから命を受け、スタイナーと二人で手分けして城下町を見回っていた。
『町の人達が何か困っていないか見てきて欲しいのです』・・・国を司る者が第一に成すべき事、それは国民を守る事だ。聡明な王女の顔を思い出してベアトリクスは目を細めた。
「ガーネット様は良い女王になられる・・・」
その時である、
「ベアトリクス様!ベアトリクス様―!」
一人の初老の女が泣き叫びながらベアトリクスの元へ駆け寄って来る。
・・・何事か!?ただならぬものを彼女は感じた。
「うちの娘・・・娘が!」
「落ち着いて下さい、何があったのです?」
取り乱す女の口から出る言葉の端々で事情を知ったベアトリクスは愕然とした。
復興の混乱に乗じて、ならず者が入り込む事は懸念されてはいたが・・・。

「やだ!離してー!」
「こいつは高く売れそうだ〜」
ベアトリクスは、一人の男が若い娘を軽々と抱きかかえながら歩くのを見た。
「およしなさい!!」
「あ〜?」
振り向いた男は2m近くはあるだろう、でっぷり太った体と獣じみた目からは良心と言ったものがまるで感じられなかった。
「きれ〜な姉ちゃんだなあ〜」
「その娘を離しなさい!」
ふふん、と男は鼻で笑った。
「やなこったね、人の商売の邪魔すんなよ〜」
「お前は人攫いか!?」
「人聞きが悪いねえ、女衒と呼んでくれ」
あちこちから若い娘を誘拐して来ては、金持ちや娼館に売りつける最低な輩、か。
そんな者がアレクサンドリアに一歩でも足を踏み入れるなど・・・。
「・・・今すぐこの町から立ち去りなさい!そうすれば私も剣を抜くのはやめましょう」
「ん?そうか、あんたがアレクサンドリアの女将軍ベアトリクスか」
男は今まで捕まえていた娘を放る様に離した。
「きゃあ!」
よろけながらこちらへやって来た娘をベアトリクスは咄嗟に支える。
「怪我はないですか?」
「だ、大丈夫です・・・」
「さあ、早くこの場から離れなさい」
娘を母親の方へやると、毅然とした態度でベアトリクスは身構えた。
「か弱き者に何と乱暴な振舞い・・・」
「へ〜〜え」
男はまるで聞いていない、それどころか彼女の姿を上から下まで舐める様に見ている始末だ。
「あんたに決〜めた!」
「?」
「アレクサンドリアにはいい女が一杯いるって聞いたんで仕事で来たんだけどよ〜。
あんたは俺の嫁にしてやるぜ〜」
はあ?と言う目でベアトリクスは男を見た。
「こう見えても俺は惚れた女には優しいんだ、金も腐る程あるしな〜」
その出所に嫌悪を催しつつ、ベアトリクスは冷ややかに言い放った。
「残念でしたね、私にはとうに心に決めた人がいます」
「そうそう、スタイナーってやつだろ〜?町中の噂になってるな〜?」
ベアトリクスは一瞬たじろいだ、二人の事がもう町まで広がっていたなんて!別に秘密にしていたわけではないけれど・・・。実際久々に明るい話題として、住民達は祝いの気持ちを口にしていただけなのだが。
「そう言やあさっきそれらしいの見かけたけどよ〜、何かだっせー男だなあ?」
一瞬ピクリと彼女の片眉が上がった。
「顔はでけえし〜、喋り方は垢抜けねえしい〜」
周りで見ていた者達がざわめき出した。何て無謀な発言をするのだ、と。
「あっちの方もつまんねえだろ?どうだい俺なら・・・」
下卑た言葉を言おうとした大男は口をつぐんだが。
「・・・女性の尊厳を踏みにじる所業だけでも人の道に外れている上に・・・」
ベアトリクスの周囲に漂う炎の様な闘気・・・トランスだ。
「アレクサンドリアで最も勇敢な騎士を貶めるなど・・・!」
そして次の瞬間―。

一方その頃スタイナーは・・・。
「うむ、この通りも大分再開したのである」
繁華街が活気を取り戻せば町全体が元気になる。スタイナーは日一日息を吹き返す城下町に半ば感嘆しながら見回りを続けていた。
これならばアレクサンドリアの完全復活もそう遠くないであろう・・・。
と、その時正門近くの方が何やら騒がしい事にスタイナーは気が付いた。
「何だ?」
スタイナーは不穏なものを感じて走り出す。
人だかりの向こうではどうやら一人の男が大声で何か言っている様だった。
「『100人斬りのベアトリクス』って女がいるだろう!そいつを呼べ!」
ベアトリクス!?何を言っているのだこの男は?
スタイナーはようやく人を掻き分けると前に立ちはだかった。
「自分が話を聞くのである、お前は何者だ?」
「ああ?」
男は嘲るような視線でスタイナーを一瞥した。
「ふん、雑魚に用は無え!」
「ざ、雑魚だと!?」
「俺様は名剣コレクターでな、セイブ・ザ・クイーンの噂を聞いてここにやって来た」
見るとすらりとした長身の男の背には立派な剣が何本も背負われている。
「ついでに剣の持ち主の首を取るのも趣味でねえ、いや元持ち主って言うのか?へへっ」
どこか狂気を感じさせる男の笑いに周りにいる者がサッと引いた。
「ん?だから雑魚に用はねえって言ったろ?とにかくベアトリクスを呼んで来いって、なあ?」
「・・・それには及ばんのである」
スタイナーが剣を抜くのを見て男はおお、と声を上げた。
「それはラグナロクじゃねーか!?思わぬ拾いもんだ!」
「剣だけでなく人も殺めるなど・・・お前の様なならず者はここから先へは一歩も通さんのである!」
剣を抜きざま男はいきなり襲いかかって来た。
「へへ〜っ今日はついてるぜ!2本も名剣が手に入るたあ!」
キン!と鋭い音が鳴り響く、そしてすぐ離れたかと思うと二人は間合いを取った。
「悪い事は言わぬ、今すぐその門から出て行け!さすれば大目に見るのである!」
「へ、その程度の腕で笑わせやがる!・・・ところでよお、ベアトリクスってのは強いんだろ?」
「な、何?」
剣を交えていると言うのにふざけた事をとスタイナーは思った。
「聞けば血も涙もねえ女将軍って話だろ?強い女ってのは大抵ひでえブスばっかなんだよなー」
「・・・何だと?」
やりとりを聞いていた住民たちが青くなる。どうやらこのコレクター、アレクサンドリアに着いたばかりで、自分が立ち合っている男とベアトリクスがどう言う関係かまるで知らないらしい。
「片目のモンスターみてえなやつの血なんざあ俺様の名剣に吸わせちゃあ気のど・・・」
気おされる様な闘気に気づいた男はようやく軽口を叩くのをやめたが、遅かった。
「・・・自分の事なら何を言われても構わんのである・・・」
スタイナーの全身が怒りで震えていた。
「しかしアレクサンドリア一の気高き聖騎士を侮辱するとは・・・!」
一気にトランス状態となり剣を高く構えるスタイナー、
そして次の瞬間――!

「遅くまでご苦労様でした。スタイナー、ベアトリクス」
ガーネットの言葉に二人は深々と敬礼していた。
「町の様子はどうでしたか?」
「はい、順調に復興は進んでおります」
「民達は・・・?」
「日々明るさを取り戻しているのであります!」
「良かった・・・他に何かありませんでしたか?」
「はい・・・何事もなく」
「はい!平穏無事でありました!」
「そうですか、ありがとう」
ガーネットは労わりを込めて微笑んだ。
「疲れたでしょう、二人共ゆっくり休んでください」

「今日も一日が終わりましたね」
各々の部屋へ向かうべくスタイナーとベアトリクスは城の廊下を歩いていた。
「うむ・・・」
そのまま黙って歩きながら、二人はそれぞれに今日の事を思い巡らせる。
「神が許してもこのベアトリクスが許しません!!」
「このスタイナー、決して許さんのである!!」
セイブ・ザ・クイーンによるショックが大男の全身を貫いた。
ラグナロクから放たれたクライムハザードが背負った剣ごと男を吹き飛ばした。
そうして愚かな者達は命からがら、アレクサンドリアの領地から逃げる様に去って行ったのである。
自分の技ゆえ当然威力も分かっていた、だがあの時・・・それ以上の凄まじさを発揮しなかったか。
「(冷静さを欠いてしまった・・・でもあの力・・・スタイナーがいる今の私だからこそ出せたのですね)」
「(頭に血が上り過ぎたのはいかんが・・・あの威力はきっとベアトリクスのおかげなのである・・・)」
そう思うとより一層お互いへの愛しさが募る二人だった。
「ベアトリクス」
「はい?」
足を止めて見つめ合うスタイナーとベアトリクス。
今日の事はガーネットだけでなくお互いにも知らせていない、しかし二人共何か高揚しているのが感じられるのだった。
「ベアトリクス・・・あの・・・今日は一段と、き、綺麗である・・・」
「私が・・・?もしそんな風に見えているのなら・・・」
ベアトリクスはスタイナーの厚い胸に手を置いた。
「それは・・・スタイナー、貴方への想いが表れているからです・・・」
「ベアトリクス・・・」
彼女の手に自分の手を重ねるスタイナー。
やがて廊下の明かりに浮かぶ影が二つそっと重なった。
朝が来るまでのほんの僅かな時間、それが今の二人に取ってどれ程貴重なひと時であるか。
「・・・明日もまた忙しいですね」
「うむ・・・おそらく」
「でも今・・・今この時だけは・・・」
祈る様に呟くベアトリクスにスタイナーが頷いた。
「分かっているのである・・・ベアトリクス」

見回りの女兵士は廊下の曲がり角に近づくにつれ、密やかな話し声を耳にした。
「あれは・・・?」
「・・・しっ!」
こっそりと角から覗いた兵士達はその正体を知る。
「・・・・・」
顔を見合わせ無言で頷くと、兵士達は静かに敬礼をして引き返して行った。
城中の者もまた、二人の騎士を心から祝福していたのだ。

【END】