【  皆でお茶を  】

「ねえねえ、今日のお二人見た?」
「見た見た〜!」
ここはアレクサンドリア城内の兵達の休憩室。
各自が食事や飲み物を持ち込んで、昼のひと時を賑やかに過ごしていた。
「なになに〜?」
女兵達の話に割ってきたのは、案の定ワイマールだ。
「あー誰かと思ったら」
「ワイマールはそろそろ休憩終わりでしょ?」
「そんな事言わないでさ〜何の話してたの?」
「そりゃあもちろん!ベアトリクス様とスタイナー様の事よ」
「ああ、スタイナー隊長とベアトリクス様ね」
そんな彼の言葉はあまり気に止めず、彼女達は話を続けていた。
「何か〜真面目な話をしてるだけって思っても、つい注目しちゃう」
「うんうん、分かる!さっきも警備の見直しの話をしてただけなんだけど、
『どの様に思われますか?スタイナー』
『うむ、自分はベアトリクスの考えが良いと思うのである』
・・・な〜〜んて!」
「何気に肩に手を置いたりしてるし☆きゃ〜!」
「ご婚約されてると思うと、余計にこっちもドキドキしちゃうのよね〜」
この様に女兵達が騒いでいた時、ワイマールがこんな事を口にした。
「ねえ思うんだけど〜、プルート隊とベアトリクス隊ってこれからは分ける必要なんて
ないんじゃない?」
「え、どうして?」
「つまり〜隊長達がご結婚されるならこの際隊も一つにして良いんじゃないかな〜って」
「あ、それもいいかもね!」
「全てが一心同体にって?・・・きゃっ♪」
「あら、ワイマールの場合は女の子達と一緒にいられる機会が増えるからって
言ってるんじゃないの?」
「ま、まあそれもあるかな、ハハ(汗)」
「悪くはないかもよー」
「うん、そうね」
出会いのチャンスは増えるに越した事ないし・・・と思う兵達だった。
「あーでも、そうしたら名前はどうなるの?」
「名前?」
「もしそうなるとしたら〜名前も1つになるじゃない?」
「そりゃあプルート隊だな」
「もちろんベアトリクス隊よね」
――。
「・・・そんなわけ」
「・・・無いんじゃない?」

軽い感じで盛り上がっていた席が、にわかに熱を帯び始めた。
「え〜プルート隊なんて変よ」
「何でだよ〜由緒正しき名前なんだぜ?」
「ベアトリクス隊じゃ納得出来ないよなー」
「何言ってんの?こんなに華麗で強くて麗しい名前が他にあるもんですか!」
話はおかしな方向へと向かいつつあった。
いつの間にか周りで聞いていただけの兵達も加わり出し、気が付けばとんでもない
人だかりになっている。
「イーファの樹の戦いを考えてみろよ〜」
「スタイナー隊長は世界を救った英雄の一人だぜ?」
「やっぱりここはプルート隊だろ〜?」
無論ベアトリクス隊も引き下がりはしない。
「ベアトリクス様のこれ迄の武勲を思い出してみなさいよ!
あら、多すぎて一つ一つ思い出せないかしら?」
「大体プルート隊なんてそれしか自慢出来ないくせに〜!」
「まあ仕方無いわよね〜今までただ飯食い同然だったし」
「何だと!?」
「聞き捨てならないな!」
「スタイナー隊長を侮辱するのは許さんぞ!」
両方が剣の鞘に手をかけた途端、ザッと殺気だった空気が立ち込める。
「やるか!?」
「やるっての!?」
「おお!受けて立・・・」
「あなた達、何をしているのです?」
!!!
そこには大輪の薔薇の様な趣きで佇む人がいた。
「ベ、ベアトリクス様・・・」
「ありゃりゃ〜」
「まずい・・・」
規律に厳しい女将軍の登場に、心臓が凍りつきそうになる兵達。
「ただ事ではない様に感じましたが?きちんと説明なさい」
「あ、あの」
「その・・・」
何しろ直接関わりのある本人を目の前にして、何をどう話せば良いのか皆戸惑って
いたのだが、間の悪い所にそこへ
「何やら騒がしいが、一体どうしたのであるか?」
と、スタイナーまでもがやって来てしまった。
「あ、スタイナー隊長・・・!」
「何だか大変な事に・・・」

事の次第を聞かされた後、ベアトリクスはやれやれと言った感じで溜息をついた。
「何かと思えばその様な事で・・・」
「は・・・申し訳ありません」
「あなた達が剣を持つのは何の為です?アレクサンドリアを守る為ではないのですか?
その剣を味方同士で向け合うなど・・・愚かな事とは思いませんか?」
静かに諭す彼女は怒る迄いかずともやはり手厳しく、どの兵もすっかり小さくなっていた。
そんな時口を開いたのは、今まで黙って聞いていたスタイナーだった。
「ベアトリクス・・・もう良いと思うのである。
少々軽率ではあったが、元はと言えば自分の所属する隊への誇りから起こった事、
大事にもならなかったのだし・・・」
「それはそうですが」
「皆も充分反省しているだろう、そうであるなプルート隊?」
「は、はい!」
「反省しております!」
「・・・スタイナー隊長もこう言ってくれています、貴女達も以後気をつけるのですよ」
「はい、ベアトリクス様!スタイナー様!」
「二度とこの様なふるまいは致しません・・・!」
「それでは全員休憩に戻りなさい」
特にお咎めも無かった事で、さっきまで険悪だった者どうしも今は顔を見合わせながら
安堵の表情を浮かべていた。
「さあ、自分達もそろそろ持ち場に戻ろうではないか」
スタイナーに促されて歩き出すベアトリクス。
「迷惑をかけてすみませんでした、スタイナー」
「ん?別にその様な事は無いのだが」
「・・・」
この頃ベアトリクスはスタイナーの心の大きさに驚かされる事がよくある。
(厳しいだけが上の務めではないと言う事なのですね・・・)
「それにしても、である」
「え?」
「ベアトリクス隊は、まっこと上官への忠誠心が厚い隊なのである。
これもベアトリクスの人徳ゆえなのだろうな、うむ」
スタイナーのにこにことした笑顔に、ベアトリクスもつられて微笑む。
「まあスタイナー・・・プルート隊の方こそ務めを良く果たす様になりました。
隊長たる貴方の日々の努力が、自然に伝わっているからなのでしょうね」
「ベアトリクスにそう言ってもらえると・・・嬉しいのである」
ちょっと照れくさそうに頭をかくスタイナー。
「良い兵が大勢いてくれて、自分達は幸せである」
「ええ・・・私もそう思います」
そんな言葉を交わして去って行く二人を、皆はぽかんとした顔で見つめていた。
「・・・ねえ、私達・・・」
「何話してたんだっけな?」
「ええっとお・・・」
「要はここにいる全員、あてられたって事かあ・・・」
その時、壁の時計が刻を告げて鳴り響いた。
「あ〜もうじき休憩終わりだ!」
「私ちょっと昼寝する〜」
「俺は剣の手入れでもするかな」
「私お化粧直しして来ようっと〜」
こうしてさっき迄の騒ぎなどなかったかの様に、アレクサンドリアの兵達は各自を過ごす。
しかし心の中では、
(スタイナー様とベアトリクス様ってイイッス・・・)
(あんな風にお互いを認め合える恋人同士って素敵・・・!)
(あ〜あ、俺のベアトリクスはいずこ・・・?)
(私のスタイナーはいつ現れるのかなあ?一生無理?なんてね・・・)
と、つい思ってしまう彼等なのだった。
【 E N D 】