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忘れられた真実


 雨の降る音を聞くと、今でも時々思い出してしまうんです。特にこういう、今日みたいに窓を叩きつけるような激しい雨が降っている日なんかは。
 ねえ、あなたは覚えていて?埋葬される事もなく忘れ去られてしまった、可哀想なあの方が亡くなった日の事を。あの日もちょうどこんな雨の降っている日でしたけど……。

 私がちょうど18になるかならないか、それであなたは23歳の頃の事でしたね。当時6歳の誕生日を間近に迎えられたガーネット様が突然誘拐されてしまって、お城は大変な騒ぎになりました。子守を任されていた侍女は打ち首にされそうになるし、他にスパイらしい人間はいないかチェックが終わるまで全員どこにも行けませんでしたし。
 その合間にブラネ陛下は私とあなた、そして私が昔従騎士として仕えていたファーメルという女性騎士を呼びだして、「絶対無事に連れ戻せ」と命じられました。
私達の前では一国を預かる国王として平静さを保っていましたが、内心ではきっと泣き叫びたいのだろうという思いが、陛下を取り巻く雰囲気を見ただけで判りました。現在のガーネット様もそうですが、その時初めて君主として人の上に立たなくてはいけない人の苦しみを多少なりとも知ったような気がします。
 一時期国際問題にも発展しかねない雰囲気でしたが、ガーネット様をさらったのはリンドブルムを拠点にあちこち荒らし回っていたつまらない盗賊たちでしたね。すでに全員処刑されてしまいましたが、確か「タンタウロス」とかいう名前でタンタラスの名を騙っていました。最初は身代金目当てで誘拐したようでしたが、途中で怖くなったのでしょう。嵐の中深い森の中に置き去りにし、やつらは既に立ち去っておりました。 
 それにしても、ああ、もし私達が見つけるのがもっと早ければ!今でもそれが悔やまれてなりません。暗闇の中でガーネット様が助けを求めて泣き叫ぶ声が、せめて嵐の風や雨の音でかき消されていなければ。あるいは発見がもっと早まっていたかもしれません。ようやく見つけて抱き上げたあの方はひどく興奮していて、おまけに高い熱を出していました。すぐに連れ帰ってトット先生に見てもらったのですが、ダメでしたね。数時間後には亡くなりました。
 事件が起こったのはまさにその時というか。ちょうど両陛下が悲嘆に暮れている時、どこからかボートが流れ着いたという情報が入りました。つまり今のガーネット様です。ブラネ様は角の生えた女の子を見た途端、死んだ娘が精霊となって生き返ってきてくれたと大喜びし、国王陛下は似ているから死んだ王女の替え玉に出来るかもしれないと安心されていました。というのもその前の年に国王陛下は病気でもう子どもを作れない体になっていたからなんですが……。
 思えばブラネ様の錯乱はあの時から始まっていたのかもしれません。つい先程まで死を悼んでいたはずの娘の遺体を埋葬もしないで、窓から投げ捨てるようにと命じられるのですから。実際生きているはずの王女にお墓があったら不自然ですから、ガーネット様は地下室へと沈められ、後で始末しておくようにと国王陛下から言われました。
 ところで、あの後で出されたお茶、あなたは飲みましたか?なんとなく気になって私は飲まなかったんですけど。あれにはトット先生の調合した忘れ薬が入っていたんです。翌日になって他の人にこの事件の話をしても、誰もが首を傾げるか笑い飛ばすだけでしたから。最近わかった事なのですが、事件を知っている国民の記憶を消すために井戸にも投げ込まれていたようです。
 ねえ、バート。だから私、今でもあの方が置き去りにされたあの森で泣いているような気がするんです。誰かに自分の存在を気づいて欲しい、あるいは忘れないでほしいと訴えているように。
 あの方の遺体なのですが、実は私とファーメルが後でこっそり引き取って埋葬しておいたんです。とても簡単ですが墓標もちゃんとつけまして。アレクサンドリアが崩壊した時にそれも倒れてしまったのですが。新しくガーネット様に仕えるようになってから、気持ちにふんぎりをつける意味でも全くお祈りに行かなかったんですけど。もし良かったら今度一緒に行きませんか?確かあの方はお母様に似てバラの花がお好きでしたから、リースでも拵えて。私のお腹にいる子ももうすぐ産まれる事ですし、報告がしたいの。
                                  (Fin)


 

<作者より>
「真実のガーネット王女はどうなったんだろう?替え玉を立てられて忘れ去られるなんて可哀想すぎる」とゲームをプレイしていて思ったのでこんな話を書いてみました。
 ちなみに、スタベア本を個人で出しています。よろしければi-wakabanari@ezweb.ne.jpまでご連絡お願いします。 

 

ゲーム中ではあまり語られなかった本物のガーネット姫のお話です。
ベア様の思慮深さや優しさがにじみ出た語り口がとても素敵です♪
みんなが忘れてしまっても、ベア様にとって今のガーネットと同じように大切な存在なのだと思います。 こういう悲しい出来事があったからこそ、ブラネ女王やガーネット様を支えようという気持ちが一層強くなったのでしょうね。
そして若葉さんの描かれるオリジナル設定はゲーム中にも出てきてもいいくらいリアリティがありますね。
『タンタウロス』、本当にありそうな気がします〜(><)
若葉さん、どうもありがとうございました!!

 

 


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